2009年01月08日

【ダークナイト】ジョーカーはサタンの囁き



090108-02.jpg 前シリーズのバットマンは、基本的に勧善懲悪のストーリーで、バットマンは揺るぎない精神で悪と立ち向かった。ただし、「悪」役キャラクターの背後にある人間性をかいま見せることで、悲しい悪役を創出した。

 今回のクリストファー・ノーランクリスチャン・ベイルのコンビでは、悪役は不動の存在であり、ヒーローたるバットマンの心が大きく揺れ動く。悩めるバットマン、弱い心を抑えきれないバットマンが描かれる。前作の『バットマンビギンズ』で腐敗していても人間に希望を持って立ち上がったバットマンが、『ダークナイト』では自らの限界を知り後ずさりしてしまうのだ。

 悪役は不動の存在だ。かれらがバットマンの敵になるのは、妥協を許さない価値観の相違である。『ダークナイト』冒頭の銀行襲撃のシーンでも、ウィリアム・フィクトナーのマネージャーが「信念はあるか」と聞きただすシーンがあるが、ジョーカーには確固たる信念がある。『バットマンビギンズ』でもリーアム・ニーソンが演じるウェインの師匠デュガードも、ゴッサムシティを破壊することになんら躊躇はない。ぶれない悪役が、バットマンの心の襞に怪しい光を当てているのだ。

 
 そういえば、冒頭のウィリアム・フィクトナーとヒース・レジャージョーカーとの会話はなかなか面白い。マネージャーの「信念はあるか」の返答は

生きて苦難を乗り越えれば、人はいかれちまう(日本語吹き替え)
死ぬような目に遭った奴は、イカれる(日本語字幕)


となっていて、ジョーカーが過去に死ぬような経験をしてイカれてしまったかのような印象を受けるが、英語を読む限りはそういう意味ではなそさうだ。英語の字幕を拾うと

I believe whatever doesn't kill you simply makes you stranger.

090108 -03.jpgとなっていて、「信念はあるさ、ここでお前が簡単に死ななかったら、お前はイカれちまう」という程度の意味なので、「信念はあるか」に対する返答ではない。もちろん、ジョーカーは過去に死ぬような目に遭い、考え方や生き方を変えたとするのは間違った想像ではないだろう。もっとも映画の英語は特殊らしいので、吹き替えや字幕のニュアンスが正しいのかも知れない。

 銀行のマネージャーは死ななかったが、どうやらイカれてしまったようで、その後マフィアの幹部として登場しなかった。しかし、日本語の吹き替えも日本語字幕も、ジョーカーの言いそうなセリフになっていて、良くできた意訳だと思う。

 『バットマンビギンズ』と『ダークナイト』と観ていて思うのは、ノーランの描こうとしているテーマは

持てるものの苦悩

ではないかということだ。頭脳明晰で身体能力も優れ、金にも困らないブルース・ウェインは、何故、単身で悪に立ち向かうのだろうか。幼少時のトラウマもあるだろう。超法規的な手段を使わないと退治できない「悪」もあるだろう。もう1つ理由を挙げるとすると、

ノブレス・オブリージュ

でもある。銀のスプーンをくわえて生まれた来たウェインにとっての「高貴な義務」がバットマンなのである。父親がゴッサムシティのインフラに私財を投じたように、ブルースはコウモリに変身して悪者を退治する。つまり、ブルースの思いついたボランティア活動がバットマンなのである。

090108-01.jpg しかし、金持ちには金持ちの悩みがある。覇権国家の持てる国アメリカにも大きな悩みがあるように。だからこそ誘惑も大きい。ジョーカーのサタンのような甘い囁きに普段の冷静さを失ってしまうのは、ウェインがバットマンになるために捨てたと思っていたものは、実は捨てておらず、それらを守ろうとしたからではないか。

 ゴッサムを守るために、ウェインは「ダークナイト」として自己犠牲の道を選ぶ。代償を求めない茨の道だ。本当にすべてを捨てる決心をする。おそらくバットマンの真の苦悩は、ここから始まるのだ。すべてを捨てることの真実の意味を毎夜噛みしめながら、バットスーツを着なければならない。バットマンの苦悩は終わらない。

 もし次回作があるとしたら(まずあるだろうが)、ダークナイトとなってさらに悩みの深まったバットマンが、大きく変貌していくことがテーマになりそうである。

 昨今のアクションシリーズはだいたい三部作が多い。『スターウォーズ』『マトリックス』『ロード・オブ・ザ・リング』いずれ三部作。つまり、シリーズ全体が「序破急」の展開なのである。

 ノーランのバットマン新シリーズも、三部作にするとしたら、次は「急」の展開が待っていそうだ。ダークナイトに堕ちたバットマンは何によって(あるいは誰によって)救われるのか。あるいは救われないのか。彼をさらに追いつめる悪役はどのようなキャラクターになるのか、次回作に大いに期待したい。富めるもの、持てるものの苦悩を救う回答を提示できれば、間違いなく大ヒットするはずである。









posted by jin-k at 19:59 | Comment(2) | TrackBack(1) | アクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして。あなたの「期待」に同感です。

ダークナイトに堕ちたバットマンは何によって(あるいは誰によって)救われるのか。あるいは救われないのか。彼をさらに追いつめる悪役はどのようなキャラクターになるのか。

次回が待ち遠しくてたまりませんよね。過去のバットマンもよかったけれど、クリスチャンベールとヒースレジャーのこの作品が今のところ最高傑作と思います。読ませていただいてありがとう。とても面白かったです。
Posted by えりイ2008 at 2009年02月16日 20:57
えりイ2008さん、コメントありがとうございます。次回作が楽しみですね。早く満身創痍のバットマンをみたいですね。きっと、感動させてくれるでしょう。

それと、「I believe whatever doesn't kill you simply makes you stranger.」はドイツの哲学者ニーチェの言葉の英訳のアレンジ版なんだそうです。だから、日本語字幕も日本語吹き替えも同じようなニュアンスになっているわけですな。詳しくはこちらを御覧下さい。

●ダークナイト再上映決定!!![Hey,Doc!]
http://skateboard.jugem.jp/?eid=146
Posted by jin-k at 2009年02月25日 22:37
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/112334855

この記事へのトラックバック

新作DVD「ダークナイト」もう見た?
Excerpt: 昨日の続きの話。 お正月は何処へも行かず、DVDざんまいとなりました。 なもんで、昨日の「ダークナイト」を3回も繰り返し見てしまいました。1回目はドキドキはらはらしながら、2回目はよく分からなかった..
Weblog: 夢 いく 身 はっぴい~ 夢をかなえたいあなたのために~
Tracked: 2009-02-16 20:58