
前作はいままでのタイトルを踏襲したが、今回はいままで使われていない短編からタイトルだけを拝借し
QUANTUM OF SOLACE
となった。「SOLACE」は慰め、「QUANTUM」は分け前(量をあらわす)なので、邦題はほぼ直訳に近い。しかし、「QUANTUM」という言葉は、実は『007/カジノ・ロワイヤル』でヴェスパー・リンドを死に追いやった謎の組織の名前であった。となると「QUANTUM」は必ずしも分け前でなくてもよい。ひょっすると、ボンドの傷ついた心を癒す、慰める対象が謎の組織「QUANTUM」なのではないかとも読み取れるのではないか。
しかしながら「QUANTUM」というネーミングはなかなか興味深い。前作でマッツ・ミケルセン演じるル・シッフルは、旅客機のテロ事件を起こして株式の空売りで大儲けしようとする。手段を選ばない組織が「QUANTUM」なわけだ。ここから連想されるのは、やはりジョージ・ソロスが率いるヘッジファンド
クォンタムファンド(Quantum Fund)
だろう。ソロスは優れた投機家であるが、ポンド危機、アジア通貨危機を引き起こしたことで悪名が高く、さらにアメリカ同時多発テロ事件でも巨大な空売りで大儲けしたという。Wikipediaの経歴によると
2001年アメリカ同時多発テロ事件発生。世界中の市場から米国株、債券、米ドル売り攻撃をかけ、市場閉鎖の間にすべてを売り払う。週明けの米国市場は暴落。150億ドル以上を稼ぐ。とある。彼こそが、ワーテルローのナポレオン敗戦で大儲けしたネイサン・ロスチャイルドの真の後継者だろう。ジョージ・ソロスがテロも辞さない悪党だと思わないが、「QUANTUM」は、世界制服を企てる謎の組織名に相応しい。
さて、今回の舞台は南米のボリビアである。残念ながら日本人にとってはあまり馴染みのない国。ボリビアといえば有名なのはポトシ銀山だろうか。スペインがポトシから収奪した銀で、ヨーロッパに多大な銀が流入し、金銀複本位制をとっていたヨーロッパ諸国は実質的に銀本位制になった。また、ポトシの銀はハプスブルグ家によって、対オスマン戦争の資金にもなった。
あと有名なのは、チェ・ゲバラが死んだ国というくらい。天然資源は豊富にあるが、石油ではなく埋蔵量が多いのは天然ガスである。もっとも天然ガスが在れば、多大な石油も埋蔵されていると考えられる。オルガ・キュリレンコ演じるカミーユは、ボリビアのかつての将軍の娘。将軍はクーデターによって殺害されたという。ボリビアは1982年までは軍政だったがその後民主政権に転換した。2005年までに大統領に就任した数は、なんと65人を数えるそうで、政権争奪の抗争が絶えなかった。
1978年にジミー・カーターがボリビアに関与し、民主化を主導したが、民主化が完成するまでに、「5回のクーデターと9回の政変が発生」したそうだ。最後のクーデターは1978年から1982年の間に起こっている。カミーユの事件は、そのあたりをモデルとしていそうだ。
ちなみにボリビアでは2000年に、「コチャバンバ水紛争」があった。市営上下水道サービス公社が民営化されて詐欺まがいの安値で民間会社に落札された。民間のトゥナリ水供給会社は、ダムの建設資金として上水道代を大幅に値上げしたため暴動を引き起こした。ただしこの事件をこの映画と結びつけるのは、かなり無理がありそうだ。

