2010年01月30日

【セントアンナの奇跡】ゴシック線の実話で知るイタリア戦線



 第二次世界大戦中、イタリア戦線で戦った黒人兵部隊、第92歩兵師団の兵士の目を等して描くヒューマンドラマ。虐殺にあった村の生き残り少年と黒人兵の心が通い合う姿をテーマに、当時のイタリア戦線の有り様をスパイクー・リーが現代に蘇らせる。

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 第二次大戦中の映画では、イタリア戦線を描いたものは多くない。連合軍がヨーロッパ戦線で巻き返しにでるのは、アメリカのパットン将軍が北アフリカに進攻したあたりからになる。北アフリカでの枢軸軍を駆逐し、シチリアを奪取してその後にイタリア南部に連合軍が上陸する。

 連合軍がイタリアに上陸したのは、1944年の1月上旬である。モンテ・カッシーノとアンツィオで上陸作戦が行われた。『プライベート・ライアン』の中で、ミラー大尉とホーヴァート軍曹がイタリア戦線のことを話題にするシーンがある。字幕では「イタリア戦線」となっているが、英語では「Anzio」と言っており、ミラー大尉のレンジャー大隊が、アンツィオでの上陸作戦に加わっていたことがわかる。

 その後連合軍はイタリア半島を北上し、1944年8月11日にトスカーナのフィレンツェを解放した。フィレンツェにはアルノ川が流れているので、フィレンツェでの攻防を「アルノ線」という。

 ドイツ軍はアルノ線を失ったとき、アルノ川にかかっていた橋を爆破した。そのときの1つが、サンタ・トリニータ橋である。橋はバルトロメオ・アンマナーティが手がけたもの。橋に据えられた4つの彫像は、1608年のメディチ家で結婚式が行われたときに作られたものだという。1608年の結婚式ということは、コジモ2世ということになる。コジモ2世はガリレオ・ガリレイの最初のパトロンとして有名。彼は1621年、31才の若さで死んだ。

 ドイツ軍がアルノ線から撤退した後の前線を「ゴシック線」という。『セントアンナの奇跡』は、フィレンツェが陥落してから3週間後を描いていて、この映画の舞台となるセルキオ川周辺がゴシックラインに当たる。連合軍はノルマンディ以降のフランス戦線に力点を置いたので、イタリアでは積極的な攻撃を控えたようだ。そのため翌年の1月までゴシック線での連合軍とドイツ軍の攻防が続いていく。

 地理的に言うと、フィレンツェから西に行くとルッカがあり、ピサにいたる。ルッカの北を流れている川がセルキオ川である。セルキオ川とアルノ川はピサで合流している。ルッカの北西に虐殺が行われた「セントアンナ(サンタンナ)」がある。連合軍の連隊本部はガッリカーノに置かれており、連合軍は東から西に攻めているのだろう。

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※舞台となったのはヴィッラ・バジーリカという村らしいが、地図上にあるヴィッラ・バジーリカかどうかはわからない。


 560名が殺されたセントアンナの大虐殺は、フィレンツェが陥落した翌日12日に行われている。これは実話。ゴシック線にアメリカ黒人兵が派兵されていたののも確か。橋の彫刻が紛失したのも確かだが、それ以上は創作だろう。プリマヴェーラ(春)が、いまどうなっているのかはわからない。

 『セントアンナの奇跡』は4人のアメリカの黒人兵とイタリアの少年の物語。

オブリー・スタンプス二等軍曹(デレク・ルーク)
ビショップ・カミングス三等軍曹(マイケル・イーリー)
ヘクター・ネグロン伍長(ラズ・アロンソ)
サム・トレイン上等兵(オマー・ベンソン・ミラー)


の4人の黒人兵が戦闘中に帰営できなくなり、途中で出会った少年をたすけるために訪れた村が舞台になる。4人の中ではデレク・ルークの知名度が高いので、トップにクレジットされているが、4人ともが主役といってもいい。最近の作品ではマイケル・イーリーは『7つの贈り物』で主人公の弟役で、オマー・ベンソン・ミラーは『トランスフォーマー』でハッカーのグレンの従兄弟役でほんの少し登場している。

 なんといっても気になるのはヘクター・ネグロン伍長を演じたラズ・アロンソだろう。彼は『アバター』でナヴィのネイチェリの婚約者だったツーティ役だった。サム・ワーシントンの顔は映画に登場するし、ネイティリは『スター・トレック』のウラ中尉を顔を思い浮かべればいいが、ツーティ役のラズ・アロンソはほとんど親近感が湧かなかった。しかし、『セントアンナの奇跡』では主役として登場するので、今度『アバター』を観るときは、この映画のラズ・アロンソを思い浮かべればよい。

100123-02.jpg この映画はスパイク・リーが監督したので、黒人差別的な部分が取り上げられがちだが、そのことはあまり意識しない方がいいのではないかと思う。アメリカの軍隊での黒人差別を知るには、南北戦争のときにはじめて正規編成された第54連隊を取り上げた『グローリー』を観ればよい。『グローリー』は黒人差別と戦いながら、黒人たちが正規兵としてのプライドを持ち栄光を掴む物語で、デンゼル・ワシントンがオスカーを手にした作品である。

 アメリカの黒人部隊が「バッファロー・ソルジャー」と呼ばれる様になったのは、南北戦争後である。第54連隊はそう呼ばれてはいなかった。南北戦争後に編成された黒人軍隊がインディアンから呼ばれた言葉とされるが、明確な根拠はないらしい。ただし、それ以後、黒人だけの部隊を「バッファロー・ソルジャー」と呼ぶようになったという。

 ちなみにドイツ軍の大尉役でスキンヘッドのクリスチャン・ベルケルが、大尉に脱走兵の捜索命令を伝える大佐にデレク・デ・リントを起用している。この二人、『ブラックブック』と『ワルキューレ』でもドイツの軍人として登場する。いかにもドイツ人らしい風貌なのだろう。







posted by jin-k at 14:18 | Comment(0) | TrackBack(1) | 第二次大戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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