2011年12月14日

【デビルクエスト】黒死病の侵入と十字軍を強引に結んだアクション活劇



 14世紀中葉にヨーロッパで猛威を振るった黒死病(ペスト)の原因と、その原因を探りをそれを防ごうとするヒーローに十字軍の騎士を据える。十字軍でありながらイスラムとの戦いに疑問を持つ最強の騎士ベイメンとフェルソンにニコラス・ケイジとロン・パールマンを配して、黒死病を呼び込んだ魔女を修道院に届ける旅をアクションシーン満載で活写する。

 111214-01.jpg 史実的にいうと、ごくわずか年代が合わせない。おそらく最初からヨーロッパでのペストの流行と十字軍騎士を組み合わせたファンタジーにしたいと思っていたからだろう。悪魔に立ち向かうのが伝説の十字軍騎士であれば、ドラマが盛り上がるという読みか。そういう意味ではストーリーはコミック調である。

 ヨーロッパでペストの猛威に最初に襲われたのは、貿易で栄えるイタリアのシチリア島メッシーナだと言われている。それが

1347年10月

である。翌年には黒死病はヨーロッパ全域に広がってヨーロッパでは人口が三割くらいが死んだと言われている。ベイメンが枢機卿のいる城塞で騎士エッカートと言葉を交わすシーンがある。ウルリク・トムセン演じるエッカートは黒死病に見舞われてから

3年とひと季節

という。したがって、この映画の時代は1350年か1351年というところだろう。

 さて、14世紀の半ばまで十字軍の遠征は行われていたのであろうか。一般な解釈では最後の十字軍は13世紀の半ばとされている。1291年にエルサレム周辺にかろうじて生き残っていた最後キリスト教国の領土が滅んだので、それ以後は十字軍というより、隣接するイスラム教国とキリスト教国との戦いになる。

 ただし14世紀以降も十字軍の名のものとに戦いが行われている。ベイメンやフェルソンの戦いはキプロス十字軍と呼ばれるものである。映画の冒頭にいくつかの戦いシーンが続いている。

1332 Gulf of Edremit
1334 トリポリの包囲(Siege of Tripoli)
1337 インブロスの戦い(Battel of Imbros)
1339 アルタハの戦い(Battel of Artah)
1344 スミルナの戦い(Battel of Smyrna)


と字幕に書かれているが、この中でWebで検索してヒットするのは、1344年のスミルナ(イズミール)の戦いのみであった。このスミルナの戦いがキプロス十字軍と呼ばれているものである。それ以外はよくわからない。たとえばトリポリの包囲といえば、通常は1102年の第一次十字軍のときに行われたものを指す。14世紀中葉にレバノンのトリポリまでキプロス軍が遠征したとは考えにくい。それともギリシャやリビアにあるトリポリなのだろうか。

111214-02.jpg キプロスは当時王国だった。ギー・ド・リュジニャンが建国している。『キングダム・オブ・ヘブン』でシビーユ(シビラ)の夫としてエルサレム王となり、ハッティンの戦いで捕虜となったギー・ド・リュジニャンである。ギーが死んだ後、彼の兄がシビーユの異母妹と結婚してキプロス王国を引き継いだ。キプロスにとってはイスラム国家と戦うのは国是だったに違いない。

 いずれにしても、スミルナの戦いは1344年なので、その1ヶ月後に故郷のドイツに帰っても、黒死病が蔓延しているわけではない。というわけで疫病が黒死病だとしたら、7年ほどサバをよんでる計算になる。

 また地名もけっこういい加減で、ベイメンとフェルソンが十字軍を離脱してから1ヶ月後にたどり着くのが

スティリア(Styria)沿岸部

となっている。スティリアはオーストリア南東部にあるので、海岸線は存在しない。おそらくこの時代にはイリリア海沿岸部に同名の場所があったに違いない。あるいは当時のオーストリア公領のごくわずかが海に面していたので、そこを指すのかもしれない。さらにベイメンやフェルソンが立ち寄る城の名前は紹介されていない。しかし旅の途中でスティーヴン・キャンベル・ムーアのデベルザックがエッカートに

魔女はマーブルグ周辺で捕まった

というので、城はマーブルグかその近辺ということになる。マーブルグ(マールブルグ)はほぼドイツの中央にある都市である。オーストリア南東部からすぐにたどり着ける場所ではない。おそらくこのマーブルグもいまのヘッセンにある都市とは別の都市だろう。ちなみに冒頭の橋で魔女が首つりされる都市フィラッハ(Villach)はオーストリア南部の都市である。

 この映画内の疫病が本当に黒死病なのかという議論は別にして、ペストはノミによって伝染する。通常腺ペストとよばれるものである。ペストは古代ローマ時代にはヨーロッパにあった疫病だったが、そののち姿を消した。実はノミにペスト菌を媒介するのはクマネズミだったが、いつの間にかクマネズミがヨーロッパから姿を消していたためらしい。

 ところが、十字軍の帰還船によって中東のクマネズミがヨーロッパにもたらされた。クマネズミはペストの感染源である。そのためペスト菌がシチリアに上陸した後は、これらのクマネズミからノミを介して一気にヨーロッパに広まったのである。ということは、悪魔の正体はクマネズミの化身だったのかもしれない。そんなことはないか。

 カトリックの司祭がルネッサンス期のソロモンの書を持っていたり、ペスト医の仮面の登場は16世紀以降だし、400リーグを6日の旅とするなど設定はかなり怪しい。しかし捕われた魔女がストーリーに緊迫感を持たせていて、アクション映画としてみればなかなか楽しい映画だった。


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◆ペスト[Wikipedia]
http://bit.ly/twAtqw

◆キプロス王国[Wikipedia]
http://bit.ly/sK6sUi


【The Pictures】ニコラス・ケイジ主演『デビルクエスト』予告編



映画『デビルクエスト』ニコラス・ケイジのインタビュー映像






 
posted by jin-k at 21:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | アクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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