2013年08月17日

【進撃の巨人】ミスリードで謎を深める壮大な巨人ゾンビの世界



 『進撃の巨人』の魅力は「謎が謎を呼ぶ」ことにあるが、すべての謎が最後にはジグソーパズルのように見事に集約しそうな「予感」がこのコミックの魅力ではないだろうか。魅力的な舞台を用意した多くの物語は謎ばかりが増えていき、最後にそれらを謎を置き捨てて尻窄みになることが多いが、『進撃の巨人』は結末から緻密に逆算されたストーリーと設定が読者を捉えて離さない。

 130817-01.jpg 「謎が謎を呼ぶ」だけで、謎が全く解決しないと読者はストレスばかりがたまり興味を失う。謎を解きつつ新しい謎がそこから生じなければならない。最初の謎は巨人と壁の存在であり、その壁を破壊した超大型巨人と鎧の巨人である。この謎の一端はエレンが巨人化したことで、巨人の正体が実は人間であるかもしれないと示唆される。コミックでは第9話「心臓の鼓動が聞こえる」、アニメ版では第8話となる。

 たとえば「フラッシュフォワード」というアメリカのTVドラマがあるが、謎の解決を出し惜しみしたために、視聴率が下がりファーストシーズンで陥落した。全人類がその未来が一瞬垣間見るというフラッシュフォワードという謎を全く解決しないまま、ファーストシーズンが終わったため視聴者が付いていけなくなったのではないか。フラッシュフォワードは遠くにある準星のパルスを増幅することでおこるのだが、それすらも開示しなかった。制作側は謎の開示に吝嗇だった。人間ドラマでストーリーを繋ごうとしたが、多くの視聴者にそっぽを向かれてしまったのである。

130817-02.jpg 謎は解明されるとき、次の新しい謎を呼ぶ。そのとき世界観は飛躍して広がらなければならない。読者は謎が解明されたときそうだったのかとカタルシスを覚え、と同時に世界観が広がってアッと驚き姿勢が前のめりになる。世界が広がるというのは、新しい発見であり、大きな磁力を持つ。世界は広がれば広がるほど収集は付きにくくなる。大きな風呂敷ほどきれいに畳むのが難しいのと同じだ。『進撃の巨人』では読者の予想を裏切って世界が広がり、それでも見事に広げた大風呂敷をたたんでみせるに違いない。

130817-03.jpg エレンが巨人化したときに巨人の正体の一端が暴露され、女型の巨人が壁から落ちたとき、壁の秘密が暴露される。壁の秘密が知れた後、猿というより巨大化したオラウータンみたいな獣の巨人が登場し、夜でも眠らずに活動する巨人を引き連れる。謎の一部が判明した後、次の謎が用意されていて読者は予想外の展開に胸を躍らせるのである。

 謎を開示していくときのストーリー展開は緻密で見事である。伏線をいくつも多重に仕掛けていて、いまいち意味不明な台詞はたいていは伏線となっている。たとえば、トロスト区攻防戦で建物の屋根に訓練兵たちが集まっているとき

アニ  「ライナー… どうする」
ライナー「まだだ… やるなら集まってからだ」


という台詞がある(コミック第7話小さな刃 アニメ版第7話小さな刃)が、後の展開が分からないと(コミック版第10巻)、この台詞の意味は見えてこない。ライナーが集まるのを待っているのは本部に突撃する兵士のことではない。こうした台詞になかでどれか伏線なのかは後にならないとなかなか分からない。会話のつながりで意味が曖昧な台詞はおそらく伏線になっていると思われる。読者はそういう箇所を見つけて、想像を巡らして巨人ワードルを楽しんでいる

 巨人の正体はすべて人間であろうと思われる。獣の巨人は分からないが、それ以外はすべて人間が何からの方法で巨人化したと考えられる。エレンや超大型巨人、鎧の巨人だけでなく、並の巨人もおそらくはもともとは人間だったに違いない。エレンが巨人化した際、コントロールを失ったり、長く巨人化していると一体化していたりするので、巨人化した後人間に戻れなくなった人々だろう。

 巨人化の技術はSF的に説明すればiPS細胞もしくは細胞外マトリックスで説明できそうだ。巨人の体は0巻を読むと、巨人ら生体には植物的な要素を強く感じる。巨大樹の森の成り立ちとも関係しそうだ。巨人の活動に日光が必要なことと、巨人が死ぬと蒸発しエレンが水をほしがるシーンを挿入しているところをみると、水と日光によって生成されされた巨大ゾンビだろう。捕縛されたソニーとビーンが殺害されたのは、並の巨人のうなじを覗かれたくなかったためではないか。

130817-04.jpg 『進撃の巨人』のもっとも大きな謎はタイトルにもある。何故、巨人が進撃するのだろうか。壁の中の住人にとって巨人は進撃するのではない。巨人は侵攻し侵略しているわけである。ストレートに考えれば「侵略の巨人」であるべきはすだ。「進撃」という言葉は、壁を壊そうとする超大型巨人や鎧の巨人からの視点ではないか。物語は壁の中の住人を主人公としているが、タイトルはこの物語の主体が壁の外の巨人側にあることを示唆している。つまりストーリーの設定とタイトルはミスマッチしており、読者を明らかにミスリードしている。もっとも英名は「attack on titan」なので、本当の意味は「巨人への進撃」なのかもしれない。

 また、「人類」という言葉もよく使われる。これは壁の中にしか人間が居ないという意味で使われているが、本当のところそうなのかは不明だろう。壁の外には人間は全く居ないと匂わせているという意味では、この言葉を多用するのはミスリードと考えられる。この言葉によって、超大型巨人や鎧の巨人は王政府内の陰謀ではないかという想像を生み出している。もちろん全く姿の見えない王政府が絡んでいる可能性はある。

 ここ数十年、読みたいと思ったコミックはほとんどなかった。こんなのは萩尾望都以来。飛躍した設定と緻密なストーリーは間違いなく世界に通じる質の高さを持っていると感じる。コミックではあと何巻なのかは分からないが、複雑に入り組んだ壁と巨人世界の謎をめくめるく快感で解くほぐしてほしいと願うばかりである。



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◆進撃の巨人[Wikipedia](ネタバレ)
http://bit.ly/14U95gO

◆進撃の巨人公式サイト
http://shingeki.net/





 
posted by jin-k at 16:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 進撃の巨人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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